第45回 2017年11月26日
第45回 「僕のブラックホール探査」
三好 真さん(国立天文台電波研究部)のお話
ブラックホール(以下BHと記載)について簡単な説明と、観測からにBHの存在を始めて発表したのは
小田稔さんであること、20世紀末にはBHの存在はほぼ確認されたとして、M87、NGC4285、SgrA*(銀河系中心)
を挙げました。
M87については、ハッブル宇宙望遠鏡による銀河中心のガスの運動をドップラー効果により測定し、太陽質量の
約30億倍の巨大BHがあることをつきとめたこと、SgrA*では、地上の望遠鏡の赤外線観測による銀河中心の
星の運動から約400万太陽質量のBHがあることを星の運動の動画を見ながら解説されました。
次に、野辺山の45mミリ波電波望遠鏡と、三好さんが関わられたNGC4258について解説がありました。
NGC4258では中心部に水蒸気メーザーによる電波が存在し、野辺山45m電波望遠鏡は広い周波数範囲を観測できる
分光器を持っていたことから、予想より大きな(研究者が半年近く気が付かないほど)速度変化を示す信号が
観測されたこと、大きな速度変化があることからVLBI観測を行ったが周波数設定のずれでほとんどの広域成分を
はずしてしまったこと、当時は相関器もハードで解析ソフトもなく大変苦労したが、高速度で運動するメーザー発見を
Natureに発表したことなどのお話がありました。
次に、1994年には米国の10台の電波望遠鏡によるVLBA観測の結果の説明があり、外側に並ぶメーザー源の速度変化が
ケプラー則に一致して変化しており回転円盤であること、回転速度と半径から中心の質量は太陽の3600万倍で
あること、これが星の集団だとするとその密度から1千万年単位で星が衝突し存在できない、従ってBHであること、
また、回転円盤からメーザーが受信されるしくみ(ワトソンモデル)の説明がありました。
最後にLIGOによる重力波検出によりBHの存在は完全に確認されたこと、SgrA*のBHの影の撮像の可能性に
ついてコメントがありました。
20世紀末のBH観測の熱気を感じさせる大変興味深いお話でした。
参加18名
第44回 2017年10月15日
第44回 「地球の温暖化と「氷」の地震について、最近のトッピクス」
金尾政紀さん(情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設)のお話
地震学の立場から、極地の地震観測や音波観測により地球温暖化を研究するお話。
イントロダクションと自己紹介の後、南極圏の特徴、観測基地、南極条約、歴代の観測船、南極大陸の特徴、
大陸の氷床が溶ける仕組み、昭和基地周辺の海水・氷床・氷山の状況、海氷・棚氷の説明、沿岸の観測点や観測計器、
しらせの砕氷の様子、氷河地震、などについてビデオもまじえて説明がありました。
次に北極圏の特徴、北極海の海氷面積急減、グリーンランドの氷床の減少、グリーンランドの氷河地震と各国の共同観測、
氷河地震が起きるメカニズムと記録例、などの説明がありました。
それから南極氷床の一生(雪が固まって融けるまで)と氷の収支が全体としてゼロか減少であること、衛星による
重力場観測から西南極で氷床がの質量損失があること、極域で氷河地震が顕著であるとの説明がありました。
そして、2億年前の大陸分布、化石による南極の歴史、南極大陸の形成分裂過程、国際共同調査について、氷床下湖の調査、
南極大陸の火山分布、大陸と縁辺部の上部マントル構造の西南極リフト帯と南アジア縁辺部の類似点、
の説明の後、昭和基地の役割、現在の昭和基地や設置されている地震計のお話があり、北極南極の地震活動
、地震波トモグラフィーによるマントルのイメージ、昭和基地の遠地地震検知数の変化、長周期音波で捉えた環境
変動など興味深いお話があり、これらの観測を長期間続けることで温暖化がわかる、ということでした。
また、昭和基地の気温は10年ごとに0.1度上がっているが、夏場は上昇が大きく冬場は変わらないこと、
南極半島では上がっていても下がっている場所もあり、上空を調べないと温暖化はわからない、というお話でした。
参加18名
第43回 2017年9月9日
第43回 「太陽の真の姿」
岡本丈典さん(国立天文台チリ観測所 国立天文台フェロー)のお話
太陽観測衛星、日本の「ひので」やアメリカの「IRIS」による画像や動画をふんだんに使ったお話でした。
まずは黒点の話から始まりました。間近に見る黒点の姿、黒点の生成・消滅と運動。太陽の赤道付近の
自転周期27日は黒点の動きでわかります。「ひので」は昼と夜の境目の極軌道を、つまり常に太陽を見つめなが
ら回っています。
煮えたぎっているように見える「グラニュール」は表面におよそ500万個のつぶつぶ構造、10分ぐらいで物質が
入れ替わっています。
太陽の100万度の大気が「コロナ」、太陽表面から出た1万度のガスが磁力線に沿ってアーチ状に流れるのが
「プロミネンス」。そして昨日来話題になっている「フレア」は爆発現象。太陽はプラズマの世界。
その現象はプラズマと磁場の関係で理解できます。黒点はN極とS極がペアになっていてループ状に磁力線が走っています。
太陽の最大の謎は100万度の「コロナ」が加熱される仕組です。フレアで放出されるエネルギーを全て足しても足りません。
可能性のある仕組はナノフレア加熱と波動加熱です。後者については「ひので」によりプロミネンスを伝わる磁場の波動が
観測されて注目されました。しかしコロナ加熱問題が解決したと言える段階ではありません。
大変興味ある問題であったので質疑応答は大いに盛り上がりました。
参加16名
第42回 2017年8月6日
第42回 「月の世界と物語り」
山田竜平さん(会津大学特任准教授、 国立天文台研究員)のお話
月の模様の各国の見方の違いや満ち欠けなど見え方のお話から始まり、過去の月探査による
表側と裏側の写真、表面の温度、表面を覆うレゴリス、各国の月探査のお話、続いて月表面の黒い部分
(海)と白い部分(高地)の違い、海の成り立ち、いろいろな地形、月の表と裏の違いなどを説明され
ました。
次に月内部について、内部を調べる方法、月の地震(月震)による調査、月震には深発月震、隕石衝突など
4種類あり深発月震は地球の潮汐力が関係していること、月震観測から見た月の内部が地殻とマントルに
分かれていること、裏側の方が地殻が厚い事などのお話に続き、月の起源説としてジャイアントインパクト説
の説明がありました。
最後に、各国の今後の探査計画や日本の探査計画としてSLIMとベネトレータプローブを使った探査計画APPROACHに
ついての説明がありました。
身近な月にもまだまだわからないことが多く、探査も簡単ではないことが良くわかるお話でした。
参加14名
第41回 2017年6月10日
第41回 「第2の地球は存在するか 〜 太陽系外の惑星の探査」
黒川 隆志さん(東京農工大学 名誉教授)のお話
始めに、これまで通信用光デバイス、光パルスシンセサイザなど通信関連の研究開発をされてきたことをお話されました。
それから、天文学と通信のかかわりとして電波天文学、すばる望遠鏡のレーザー人工星による光学補償、
66台のALMA望遠鏡を接続する光ファイバーのお話に続き、宇宙の大きさ、何故系外惑星を調べるのか、
これまで見つかっている系外惑星と探査、系外惑星を見つける方法、最近発見されたプロキシマbやトラピスト1
の系外惑星について説明がありました。
そして、M型赤色矮星を対象とした赤外ドップラーによる系外惑星探査として、星からの近赤外線のスペクトラムを
測定する分光器とその目盛となる一定間隔のスペクトルを作る光コムについてお話されました。すばる望遠鏡に
設置した装置の概要、ドップラー変移量が小さいため分光光学系を防振台上のセラミック定盤に構成し全体を
真空かつ一定温度にする必要があること、精密分光のために必要なコムの性能、検出できる変化量などのお話があり、
5年間の観測で30個くらいの系外惑星を見つけたいとのことでした。質疑応答も活発に行われました。
参加15名
第40回 2017年4月30日
第40回 「ニホニウム誕生物語」
矢野 安重さん(理化学研究所仁科加速器研究センター特別顧問、仁科記念財団常務理事)のお話
今年3月に創立100周年を迎えた理化学研究所の簡単な沿革、100周年記念切手のデザインの説明からお話が始まり、
森田浩介さんのプロフィール、ロシア、ドイツの研究者とその成果、理研のCold Fusion反応とロシア、アメリカの
Hot Fusion反応について、113番元素の命名権は際どかったこと、幻に終わった過去の日本発新元素の話題の後、
仁科加速器研究センターの史上最強の超伝導リングサイクロトロンの説明と天然元素の起源の解明が本来の目的
であることを強調され、新元素が何故113とわかるか、新元素の生成率と原子番号の関係、等について裏話と
ユーモアを交えてお話いただきました。タイムリーな話題でお話も大変面白く活発な質疑応答が行われました。
参加30名
第39回 2017年4月9日
第39回 談話会「人類が獲得した皮膚の色とそのために背負った病」
参加者からの話題提供として、皮膚の色と紫外線の影響や病の関連、
ホモサピエンスの発祥と世界各地への移動、アフリカ単一起源説とミトコンドリアイブ、
Y染色体アダム、多地域進化説などのお話があり、参加者との質疑応答が行われました。
参加11名
第38回 2017年3月4日
第38回「電波で見た太陽系〜どんどん見つかる新たな謎〜」
飯野孝浩さん(東京農工大学科学博物館 特任助教)のお話
太陽系外惑星系トラピスト1の話題紹介から始まり、惑星大気の組成、構造(温度)、ダイナミクスを
観測するには電波が向いていること、しかし系外惑星は電波では見えないことから、太陽系内の惑星の
観測により惑星の環境と起源を知る必要があるというお話をされました。
具体例として、海王星では中間赤外線で見える10Kくらい明るい極地の渦が電波では見えない謎(高度の違い?)、
木星の成層圏の電波観測によるCS、HCNの起源、海王星にはない硫化物、彗星衝突による大気組成の変動等の謎、
また、タイタン大気の窒素化合物の謎、火星大気中のメタン存在の謎など、サブミリ波の電波観測観測結果や
ALMA等の電波望遠鏡の解説と共に説明していただきました。
参加20名
第37回 2017年2月12日
第37回「革命期を迎えつつある天の川銀河の地図作り」
松永典之さん(東大助教)のお話
天の川銀河の形を知るために星までの距離を決めて地図を作ろうとしており、
距離を知るには年周視差(三角測量)を使う方法と標準光源(セファイド変光星)があり、
それぞれの解説がありました。
年周視差については、その難しさ(視差が小さい、大気の影響が大きいなど)、19世紀の視差発見の歴史、
ヒッパルコス衛星(10万個の星、精度1ミリ秒)、電波干渉計(国立天文台VERA、電波天体10マイクロ秒)、
ガイア衛星(10億個を精度10マイクロ秒の計画)、今後のジャスミン計画についてのお話がありました。
標準光源を利用する方法では、真の明るさを推定できるものとしてセファイド変光星があり、
小マゼラン雲でその性質の発見、ハッブルが渦巻銀河の距離測定に利用し銀河宇宙という世界観と
宇宙膨張(ハッブルの法則)の発見につながったこと、ハッブル宇宙望遠鏡で遠い銀河(1億光年)
のセファイドが観測できるようになったこと等の解説がありました。
最後に松永さんの研究の紹介で、近赤外線観測による暗黒星雲の向こう側の変光星の発見と
そこから分かる銀河中心付近の性質のお話がありました。
参加20名
第36回 2017年1月14日
第36回「プラネタリウム最新事情と2017年の天文現象」
柴崎勝利さん(多摩六都科学館 天文チーム)のお話
まず2017年の天文現象について、アルデバラン食、米国の皆既日食、土星の輪が最大など
シミュレーションを交えながら紹介いただきました。
次にプラネタリウムの歴史として、これまで各地で使用された数々の名機の紹介と現在稼動している
プラネタリウムの紹介がありました。
それから光学プラネタリウムとデジタルプラネタリウムの違いやデジタルプラネタリウムの演出例、
表示できる観測データの例についての解説がありました。
最後に多摩六都科学館と連携協力関係にある研究機関の紹介があり、プラネタリウムはどんなに進化しても
本物にはかなわないが、科学シミュレーションやコミュニケーションの最高のツールであり、子供から
大人までわくわくできるツールである、というまとめで終わりました。 参加18名